学習についていけない不安から始まる不登校

こんにちは。お子さんが学校に行きたがらない、または行けない状況が続くと、親としては「どうしてだろう」「どうすればいいのだろう」と悩むことも多いかと思います。特に、学業不振が引き金となる不登校は、子どもたちが抱える不安やストレスを見逃しがちな問題のひとつです。

この記事では、「学習についていけない」という不安がどのように不登校につながるのか、そのメカニズムを解説するとともに、親や教育者としてどのような支援ができるのかを考えていきます。お子さんの気持ちに寄り添いながら、少しでも役立つ情報をお届けできれば幸いです。

目次

 学業不振が不登校につながるメカニズム

 学習についていけない不安の連鎖

学校生活において、学習内容が理解できない、授業についていけないという感覚は、子どもにとって非常に大きなストレスになります。このような不安が蓄積すると、次のような悪循環に陥りやすくなります:

1. 授業中の不安感

周りの友達がスムーズに理解しているように見える中で、自分だけが「分からない」と感じると、劣等感が生じます。これが「自分はダメだ」という否定的な感情につながります。特に、周囲の目が気になりやすい子や、評価されることが重要だと感じている子にとって、この劣等感はとても辛い状況だと思われます。

2. 自己肯定感の低下

繰り返し「できない」「分からない」を経験することで、子どもは自分自身への評価を下げてしまいます。この状態が続くと、「どうせ自分には無理だ」という気持ちが強まり、学習意欲そのものが失われてしまいます。

3. 学校への恐怖感  

 学校に行くと「また分からないことを経験する」「先生に怒られるかもしれない」「友達に馬鹿にされるかもしれない」といった恐怖感が生まれ、次第に登校そのものが難しくなります。

4.人間関係が上手くいかず悩んでいる場合

学校生活において、周囲の人間関係が良好でない場合、トラブル等を抱えている場合、また家庭が落ち着かない状況だったりすると、実は教室で落ち着いて勉強をするどころではなかったりします。単に、学習の遅れや不振と見るだけではなく、学習に向かう心の環境がどうか、という視点で子供の状況を見つめることも重要です。当然、学校にいても勉強どころでない気持ちであれば、上記のようなことが連鎖し、悪循環に陥ることがあります。

このように、学業不振が引き金となり、自己肯定感の低下や学校への恐怖感を伴って不登校へとつながるケースは少なくありません。

基本的自尊感情と社会的自尊感情の重要性

学力不振・それに伴う学力評価等が引き金になっている不登校の背景には、子どもの「自尊感情」の低下が深く関わっている場合が多く考えられます。ここで、自尊感情には2つの種類があることを理解しておくことが大切です。

 基本的自尊感情(Basic Self-Esteem)

基本的自尊感情とは、成功や失敗に関わらず「自分はそのままで価値のある存在だ」と感じられる感情です。これがしっかりと育まれていると、たとえ困難に直面しても「自分なら乗り越えられる」と思える強さを持つことができます。

基本的自尊感情は、親や周囲の大人が子どものありのままを受け入れ、失敗も含めて受け止めてもらえること、存在が肯定されることでゆっくりと形成されます。

 社会的自尊感情(Social Self-Esteem)

一方、社会的自尊感情は、他者からの評価や比較によって変動する感情です。「テストで良い点を取った」「友達に褒められた」といった成功体験が社会的自尊感情を高めますが、逆に「失敗した」「友達に馬鹿にされた」という経験があると大きく低下します。

学業不振が原因で不登校になる子どもたちは、社会的自尊感情が低下している場合が多い、というように解釈することもできます。このように捉えるとすれば、まず基本的自尊感情を育むことが重要となります。

 学習支援が不登校解消の鍵

 「できない」「分からない」が言える環境を作る

学習についていけない子どもたちにとって、「分からない」と言える環境はとても大切です。子どもが「分からない」と言ったときに、馬鹿にされたり怒られたりする経験を繰り返すと、次第に自分の気持ちを表現すること自体を避けるようになります。

親や先生が「分からないのは当たり前だよ」「一緒に考えよう」と寄り添うことで、子どもは安心して自分の気持ちを伝えられるようになります。

友達に教えてもらえる環境の大切さ

また、友達同士で教え合う環境も非常に効果的です。同じ目線で説明してもらえることで、子どもは理解しやすくなり、さらに「教えてもらえた」という経験が社会的自尊感情を高めます。

小さな成功体験の積み重ね

学習支援では、子どもが小さな成功体験を積み重ねられるようにすることが重要です。例えば、簡単な問題から始めて、できたときにはしっかりと褒める。これを繰り返すことで、「自分にもできるんだ」という自信が徐々に育まれていきます。

 親や教育者ができること

 子どもの気持ちに寄り添う

不登校の子どもに対して、無理に学校へ行かせようとするのではなく、まずは気持ちに寄り添いましょう。「どうして学校に行かないの?」と責めるのではなく、「どんなことが不安なの?」と優しく問いかけてみてください。

 学校以外の学びの場を探す

学校に行けない場合でも、フリースクールやオンライン学習など、学校以外の学びの場を活用することができます。子どもが安心して学べる環境を見つけることが大切です。

 専門家に相談する

不登校が長期化する場合は、スクールカウンセラーや教育相談機関など、専門家の力を借りることも検討してください。

 まとめ

学業不振が引き金となる不登校は、多くの子どもたちが直面する可能性のある問題です。しかし、親や教育者が学習支援や自己肯定感の維持に取り組むことで、子どもたちは再び自信を取り戻し、学校生活に戻ることができます。

大切なのは、子どもの気持ちに寄り添い、「分からない」「できない」と安心して言える環境を作ること。そして、基本的自尊感情を育むことで、子どもが困難に立ち向かう力を持てるようサポートすることです。

お子さんの不登校に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、ぜひ周囲のサポートを活用してください。お子さんが笑顔を取り戻し、自信を持って学べる日が来ることを心から願っています。

寄稿者

茨木 泰丈

公益社団法人学校教育開発研究所 事務局長・理事
2024年・名古屋市 「今後の不登校施策に関する有識者等会議」委員、2025年・東広島市「雲 (クラウド)の上で~思春期の子育てを語り合う集い~」 講師、YouTube 「フリースクールで頑張る先生のための応援チャンネル」運営者、子どものための「学校適応感尺度」 アセス コーディネーター、学習心理支援カウンセラー(専門課程)修了。国家資格キャリアコンサルタント

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