保護者の関わり方が不登校の変化をもたらした事例

お子さんが不登校になり、ご家族で悩んでいらっしゃる方もいるかもしれません。不登校は、お子さん自身の問題だけでなく、ご家庭全体のバランスや関わり方が影響していることも少なくありません。しかし、保護者の皆さんの関わり方が変わることで、お子さんが再び学校へ向かうきっかけをつかんだり、社会とのつながりを取り戻したりするケースも多く存在します。 今回は、そのような「保護者の関わり方の変化がお子さんの変化を促した事例」をご紹介します。

目次

事例1:過干渉から「見守る」姿勢へ

不登校の背景

中学2年生のAさんは、小学校高学年から不登校が始まりました。もともと真面目で完璧主義な性格でしたが、クラスでの人間関係に悩み、学校に行くことを拒むようになりました。母親はAさんのことを心配するあまり、朝は「学校に行きなさい」と声をかけ続け、行かないと分かると「どうして行けないの?」と問い詰めていました。Aさんが部屋に閉じこもりがちになると、食事や水分を部屋まで届け、常にAさんの様子を気にかけ、少しでも元気がないと病院に連れて行こうとするなど、過干渉になっていました。

保護者の変化

ある日、スクールカウンセラーから「Aさんの気持ちを尊重し、見守る時間も必要です」とアドバイスを受けました。母親はこれまでAさんのことを第一に考え、良かれと思って接していたため、最初は戸惑いを感じたそうです。しかし、これまで何をしても状況が変わらなかったことから、試しにアドバイスを受け入れてみることにしました。

母親は、朝Aさんに声をかけるのをやめ、部屋から出てこなくても、Aさんのペースに任せることにしました。食事もリビングに用意し、Aさんが食べたい時に食べられるようにしました。また、Aさんが部屋で過ごす時間が増えても、以前のように頻繁に声をかけたり、様子を伺いに行ったりすることを控え、「そこにいること」を受け入れ、「信じて見守る」姿勢へと切り替えました。

子どもの変化

母親の過干渉が減ると、Aさんは少しずつ自分のペースを取り戻し始めました。最初は部屋から出てくることさえ稀でしたが、数週間後にはリビングで食事をするようになり、母親との簡単な会話も増えました。ある日、Aさんから「少し散歩に行ってくる」と自発的に声をかけ、近所の公園まで出かけるようになりました。そして、不登校になってから半年後、Aさんは通信制高校への入学を決め、自分のペースで学びを再開することができました。

母親の「見守る」姿勢が、Aさんに安心感と自己決定の機会を与え、自立への一歩を踏み出すきっかけとなったのです。

事例2:正論から「共感」と「受容」へ

不登校の背景

高校1年生のBさんは、入学後すぐに不登校になりました。部活動の人間関係でトラブルを抱え、学校に行く意味を見失ってしまったのです。父親は、Bさんが学校に行かないことに苛立ちを感じ、「お前が悪い」「甘えるな」「学校は行くものだ」と、Bさんを叱りつけることが多くありました。母親は、父親の言葉に心を痛めながらも、どのようにBさんに接すれば良いか分からず、ただ見守るばかりでした。

保護者の変化

家族で参加した不登校の親の会で、父親は他の保護者の話を聞き、自分の接し方がBさんをさらに追い詰めていたことに気づかされました。そして、「正論で追い詰めるのではなく、まずはBさんの気持ちに寄り添うことが大切だ」と痛感しました。

父親は、Bさんとの会話でこれまでの「正論」を押し付けるのをやめ、Bさんの話を最後まで聞くことに徹しました。Bさんが「学校に行きたくない」と話せば、「そうか、行きたくないんだね」と、まずはその気持ちを受け止めるようになりました。Bさんが悩みを話せば、「辛かったね」「よく頑張ったね」と、共感の言葉をかけ、Bさんの感情を「受容」する姿勢を見せるようになりました。 母親もまた、父親の変化に合わせ、Bさんの気持ちを尊重するよう努めました。

子どもの変化

父親が自身の関わり方を変えてから、Bさんは少しずつ心を開くようになりました。最初はぶっきらぼうな返答が多かったものの、次第に学校での出来事や抱えている葛藤について話してくれるようになりました。父親は、Bさんの話を聞き、時には沈黙することもありましたが、決してBさんの言葉を否定せず、ただ耳を傾けました。

ある日、Bさんは父親に「学校に行ってみようかな」と漏らしました。父親は驚きながらも、「行ってみるんだね、応援してるよ」と伝えました。そしてBさんは、週に数回からですが、少しずつ学校に顔を出すようになりました。最終的には、以前のように毎日登校することはなかったものの、通信制のコースに切り替えるなど、自分に合った形で学びを継続できるようになりました。

父親がBさんの気持ちに寄り添い、感情を受け止める姿勢を示したことで、Bさんは「自分のことを理解してくれる人がいる」という安心感を得て、再び前向きになることができたのです。

事例3:期待を手放し「ありのまま」を受け入れる

不登校の背景

小学4年生のCさんは、小学校に入学してからずっと、親の期待に応えようと頑張ってきました。成績も良く、習い事も熱心に取り組む、いわゆる「良い子」でした。しかし、3年生の終わり頃から「お腹が痛い」「頭が痛い」と訴えることが増え、4年生になると学校に行けなくなってしまいました。母親はCさんに「どうして学校に行けないの?」と問い詰め、「頑張れば行ける」「みんな行っているんだから」と励ますことが多かったため、Cさんはますます追い詰められていきました。

保護者の変化

スクールソーシャルワーカーとの面談で、母親は自分がCさんに過度な期待をかけていたことに気づかされました。無意識のうちに「こうあるべき」という理想のCさん像を押し付けていたのです。母親は、Cさんが「良い子」でいることを求めすぎていた自分を反省し、Cさんの「ありのまま」を受け入れることを決意しました。

母親は、Cさんに「学校に行かなくてもいいんだよ」「お母さんはCちゃんが元気でいてくれるだけで嬉しいよ」と伝えました。そして、これまで無理にさせていた習い事も全てやめさせました。Cさんが家でゲームをしていても、テレビを見ていても、口出しせず、Cさんの好きなように過ごさせる時間を増やしました。

子どもの変化

母親が「学校に行かなくてもいい」と告げた時、Cさんは最初驚いた表情を見せましたが、次第に表情が柔らかくなっていきました。無理に学校に行かなくていい、という安心感がCさんを解放したのです。その後、Cさんは家で絵を描いたり、本を読んだり、自分の好きなことに没頭する時間が増えました。

しばらくして、Cさんから「友達に会いたいな」と自発的に言うようになりました。母親は、Cさんの気持ちを尊重し、友達を家に招いたり、一緒に遊びに行ったりする機会を作りました。Cさんは、学校に行くことへの抵抗感は依然としてありましたが、月に数回、給食の時間だけ学校に行くことから始め、徐々に滞在時間を延ばしていきました。そして、最終的にはフリースクールに通いながら、自分のペースで学びを深める道を選びました。

母親がCさんへの期待を手放し、「ありのまま」のCさんを受け入れたことで、Cさんは自分らしくいられる安心感を得て、次のステップへと進むことができたのです。

変わることは、お子さんを変える第一歩

ご紹介した事例はほんの一部ですが、どの事例も保護者の関わり方が変わることで、お子さん自身も変化するきっかけをつかんでいます。 「不登校 保護者 関わり方」「親の対応 変化」「不登校 家族」という言葉で検索される方もいらっしゃるかもしれません。お子さんの不登校に直面した時、保護者の方々はご自身を責めてしまうこともあるでしょう。しかし、大切なのは、今からどのように関わっていくかです。

「こうあるべき」という固定観念を手放し、お子さんの気持ちに寄り添い、信じて見守る姿勢は、お子さんにとって何よりも大切な心の支えとなります。完璧な親になる必要はありません。今日からできる小さな変化が、お子さんの未来を大きく変えるかもしれません。

もし今、お子さんの不登校で悩んでいらっしゃるのであれば、一人で抱え込まず、カウンセラーや専門機関、フリースクールあるいは同じ悩みを抱える保護者の方々とつながることも大切です。保護者の皆さんの変化は、お子さんの変化を促す最も力強いメッセージとなるでしょう。

投稿者

堀内 孝一

1997年代前半に全国の高校中退者が12万人という状況を知り、その時代では唯一無二の教育である全日型通信としてリスタート教育を掲げていたクラーク記念国際高等学校に1997年に入職。西日本地区を中心にリスタート教育を発信し続ける中、2023年に小中学生の不登校34万人以上という状況の中、2024年に「一般社団法人こども教育支援機構」がフリースクール:クラーク国際中等部を設立。初代校長に就任。
居場所作りのスリースクールにプラスして「将来先取り教育」を実行している。

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