不登校は甘えではない|よくある誤解と正しい理解

「不登校」という言葉を聞くと、どのようなイメージが浮かびますか?「怠けている」「甘えている」「好きなことだけしている」……そんな偏見を持っていませんか?

実際には、不登校の背景には複雑な要因が絡み合っており、決して本人の意思や努力だけで解決できるものではありません。本記事では、不登校に対するよくある誤解を解き、正しい理解を深めるための視点をお伝えします。

目次

不登校に対する社会的偏見

文部科学省の定義によれば、不登校とは「心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況」を指します。しかし、社会にはいまだに「不登校=甘え」という偏見が根強く残っています。

よくある誤解

不登校は甘えではない

「怠けているだけ」

実際には、不登校の子どもたちはさまざまな困難を抱えています。例えば、人間関係のトラブル、学業への不安、体調不良などが原因で登校できない場合が多く、本人も苦しんでいることがほとんどです

「家庭のしつけが悪い」

不登校状態に落ちいる背景や引き金の根っこにあるものは多岐にわたります。ご家庭でのギスギス感やしつけの厳しさが指摘されるケースも0ではありませんが、決めつけてしまうのは軽薄と言わざるを得ません。普段クラスでおしゃべりするクラスメイトを「友達と呼んでいいのかわからない」と感じてしまうほどの関係性の希薄さ、社会構造の変化、学校でのいじめや教師との関係、さらには社会的なプレッシャーなど、多岐にわたる要因が絡んでいます。

「将来がダメになる」

不登校は一時的な状態であり、支援が適切であれば子どもは自分らしい道を見つけることができます。大人社会で、最初に就職した企業が合わず退職を決意したのち自分に合った再就職・転職先と出会う、ということが社会で容認される時代です。いい支援を受ける、ということは、セカンドチャンスが世の中にはたくさんある、自分を見捨てず助けてくれる社会がある、ということを学ぶチャンスにもなり得ます。つまり、「将来がダメになる」と周囲が言い続けてしまうと、本当にダメになってしまうことがあり得ます。

ソーシャルボンド理論から見る「学校に行けない理由」

不登校は甘えではない

不登校を理解する上で役立つのが、アメリカの社会学者トラヴィス・ハーシの「ソーシャルボンド理論」です。この理論によれば、人が社会に結びつきを感じるためには、以下の4つの「ボンド(絆)」が必要とされています。

1. 愛着(Attachment)

家族や友人、教師との信頼関係が「愛着(自分は大切にされる存在だ、という気持ち)」を生みます。しかし、いじめや孤立、教師との摩擦などでこの愛着が失われると、学校に行く意欲が低下してしまいます

例:仲の良い友達がいなくなったり、教師から叱責を受け続けることで、「学校は自分の居場所ではない」と感じるようになる。

2. 投資(Commitment)

学校生活に努力や時間を注ぐことが「投資」です。勉強や部活動などに取り組む中で得られる成果や達成感が、学校に行く理由になります。

例:学業不振や部活動での挫折が重なると、「頑張っても無駄だ」と感じ、学校への意欲を失う。

3. 巻き込み(Involvement)

学校行事やクラス活動への参加が「巻き込み」を生みます。これが欠けると、学校との関わりが薄れ、不登校につながりやすくなります

例:行事やグループ活動で役割を与えられないと、「自分は必要とされていない」と感じる。

4. 信念(Belief)

学校に通うことが「大切だ」という価値観や信念が、子どもたちを支えます。しかし、これが揺らぐと、学校に行く理由を見失います。

例:「学校に行く意味がわからない」「将来のために役立たない」と感じるようになる。

ボンドが失われたとき

不登校は甘えではない

これらのボンドがすべて失われたとき、子どもたちは学校に留まり続ける理由を見いだせなくなります。これは大人の世界にも当てはまります。たとえば、職場で人間関係が悪化し、仕事へのやりがいを失い、会社に対する信念もなくなったらどうでしょう?その職場に留まり続けるのは難しいはずです。

大人と子どもの「逃げ道」の違い

大人には、有給休暇や転職といった「逃げ道」があります。それを選んでも、「甘えだ」と批判されることは少なく、むしろ「自分を大切にする選択」として肯定されることが多いでしょう。一方で、子どもにはそのような選択肢がほとんどありません。それどころか、学校を休むと「甘えだ」と批判され、偏見にさらされることがあります。これは非常に不公平な状況と言えるでしょう。

偏見をなくし、正しい理解を

不登校は「甘え」ではなく、子どもが何らかの困難を抱えているサインです。その背景には、心理的、情緒的、身体的、社会的な要因が複雑に絡み合っていることを理解することが大切です。

保護者や周囲にできること

  • 子どもの気持ちに寄り添う:「どうして学校に行けないの?」と問い詰めるのではなく、「今、何が一番辛い?」と優しく聞いてみましょう。
  • 専門家に相談する:スクールカウンセラーや教育相談機関など、専門家の力を借りることも重要です。
  • 学校以外の選択肢を考える:フリースクールやオンライン授業など、子どもに合った環境、「今の気持ちを理解し肯定してくれる場所・人」を見つけることも一つの方法です。

まとめ:不登校は「甘え」ではなく「サイン」

不登校は、子どもが何らかの困難を抱えていることを示すサインです。偏見や誤解をなくし、子どもの気持ちに寄り添いながら支援することで、彼らが再び笑顔を取り戻す手助けができます。

大人も困難に直面したときには「(その瞬間)逃げ道(に見える方法)」を選ぶことがあります。それを「甘え」とは言いません。子どもたちにも同じように、安心して休める環境や、次の選択肢を提供することが求められています。

参考資料
中学生の不登校とは?基本的な定義と現状を徹底解説
トラヴィス・ハーシ「ソーシャルボンド理論」
文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

寄稿者

茨木 泰丈

公益社団法人学校教育開発研究所 事務局長・理事
2024年・名古屋市 「今後の不登校施策に関する有識者等会議」委員、2025年・東広島市「雲 (クラウド)の上で~思春期の子育てを語り合う集い~」 講師、YouTube 「フリースクールで頑張る先生のための応援チャンネル」運営者、子どものための「学校適応感尺度」 アセス コーディネーター、学習心理支援カウンセラー(専門課程)修了。国家資格キャリアコンサルタント

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