「親の育て方が悪い」は間違い|不登校の真の原因を知る

お子さんが学校に行けなくなったとき、多くの保護者の方が最初に思うのは「私の育て方が悪かったのだろうか」という自責の念ではないでしょうか。周囲から「親の育て方のせいだ」といった言葉を投げかけられ、深く傷ついている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、まず最初にお伝えしたいことがあります。不登校は、親の育て方だけが原因ではありません。これは、教育心理学や児童精神医学の専門家も一致して指摘している事実です。
なぜ「親のせい」という誤解が生まれるのか

「不登校は親の責任」という考え方は、なぜこれほど根強いのでしょうか。
一つには、日本社会に残る「母親神話」や「家庭教育責任論」の影響があります。子どもの問題はすべて家庭、特に母親の責任とする価値観が、今なお多くの人の心に残っているのです。
また、目に見える原因を求めたいという人間の心理も関係しています。複雑な問題に直面したとき、私たちはつい分かりやすい「犯人」を探してしまいがちです。でも、不登校という現象は、そんなに単純なものではありません。

不登校の真の原因:多要因性という視点

現代の研究が明らかにしているのは、不登校はさまざまな要因が複雑に絡み合って起こるということです。
学校環境の要因
- 友人関係のトラブルやいじめ
- 教師との関係性
- 学習内容への不適応
- 過度な競争環境やプレッシャー
- 集団生活への負担
子ども自身の特性
- 繊細で傷つきやすい気質(HSC: Highly Sensitive Child)
- 発達特性(ASD、ADHDなど)
- 不安症や抑うつ傾向
- 完璧主義的な性格
- 睡眠リズムの乱れ
社会的要因
- SNSを通じた人間関係の複雑化
- 過度な情報刺激
- コロナ禍による生活様式の変化
- 学校システムと子どもの個性のミスマッチ
これらの要因が、お子さん一人ひとりの状況に応じて、異なる組み合わせで影響しているのです。

「育て方」と不登校の関係を正しく理解する
では、家庭環境や親子関係は、不登校とまったく無関係なのでしょうか。
正直に申し上げれば、家庭環境も影響要因の「一つ」ではあります。しかし、それは「親の育て方が悪い」という単純な話ではありません。
たとえば、とても厳しい叱責が続く環境や、逆に過度に子どもの意見を無視してしまう関わり方は、子どもの心に負担をかける可能性があります。しかし、そうした関わり方も、多くの場合は「悪い親」だからではなく、親御さん自身が余裕を失っていたり、適切な情報や支援を得られなかったりすることが背景にあるのです。
つまり、親子関係も、不登校という現象を構成する要素の一部ではあっても、それが「原因」であるとは言えないのです。

育て方で自分を責めないで

もしあなたが今、「私の育て方が悪かったから」と自分を責めているなら、どうかその重荷を少し降ろしてください。
自分を責め続けることは、お子さんの回復にとってもプラスにはなりません。親が罪悪感でいっぱいになっていると、子どもは「自分のせいで親を苦しめている」とさらに自分を責めてしまいます。この負のスパイラルから抜け出すことが、とても大切です。
不登校になったのは、誰かが「悪い」からではありません。さまざまな要因が重なり、今のお子さんにとって学校という場所が辛い場所になってしまった、ただそれだけのことなのです。
これから大切にしたいこと
お子さんが学校に行けない今、大切なのは「なぜこうなったのか」と過去を責めることではなく、「これからどうしていくか」を考えることです。
まず、お子さんの今の気持ちに耳を傾けてください。学校の何が辛いのか、何に困っているのか。もしお子さんが話せる状態でないなら、無理に聞き出す必要はありません。ただそばにいて、「あなたの味方だよ」と伝え続けることが、何よりの支えになります。
そして、どうか一人で抱え込まないでください。スクールカウンセラー、教育相談センター、不登校の親の会など、相談できる場所はたくさんあります。同じ経験をしている保護者の方々と話すことで、「自分だけじゃないんだ」と気づき、心が軽くなることもあるでしょう。

最後に
不登校は、決して「親の育て方が悪い」からではありません。それは、現代社会の複雑さ、学校システムの課題、そしてお子さん一人ひとりの個性や特性が、複雑に絡み合った結果なのです。
あなたは、十分に頑張ってきました。そして今も、お子さんのために最善を尽くそうとしています。その思いは、必ずお子さんに届いています。
「親の責任」という呪縛から自分を解放し、お子さんと一緒に、その子らしい道を探していく。それが、不登校という経験を乗り越えていくための、最初の一歩なのかもしれません。
あなたとあなたのお子さんは、決して一人ではありません。

