「習慣でひらく扉――不登校の季節を歩く家族へ」6

手帳に「×」をつける習慣を、僕は長いあいだ続けてきました。

「今日はできた、〇」「今日はできなかった、×」。教員の若手時代、自分の力不足を毎日突きつけられていた僕は、何とか自分を立て直したくて、いろいろな目標を立てては、毎晩、できた・できなかったを採点していました。

ところが、ある時期から、その手帳を開くのが怖くなりました。×のページが続くと、見るたびに、自分にダメ出しが返ってくる。「今日もダメだった」「また×が増えた」――そう確信を深めるためのノートになっていたのです。

今回は、その「×」を、家族の毎日からそっと外していくお話です。お子さんのためにも、お父さん・お母さん自身のためにも、です。

目次

「×」は、未来をつくらない

ふしぎなことですが、「できなかったことに×をつける」と、たいてい、もう一度やる気は減っていきます。

「×をつけられた」という事実を、脳はとても強く記憶します。なぜなら、脳には「自分を守る」という本能があって、痛い記憶ほど、強く刻むようにできているからです。(これをネガティビィティバイアスと言ったりします。)

すると、次の日に同じことをやろうとしたとき、脳の中で「またあの×がついた瞬間」が先回りして思い出されます。痛みを避けるために、脳は無意識のうちに、その行動から少し距離を置こうとする。これが、「続けようとすればするほど、続かなくなる」という、あの感覚の正体です。

これは、お子さんにも、まったく同じことが言えます。

「今日も学校に行けなかったね」とつぶやかれた朝。「今週、結局1日も行けなかった」と振り返られた金曜日の夜。声のトーンが穏やかでも、お子さんの脳は、それを「×」として記録していきます。記録された×は、明日の動きを、確実に重くします。 責めなくても、×は積み上がる。これが、いちばんつらいところです。

「振り返り」を、再設計する

ここで提案したいのは、「振り返るのをやめる」ではありません。振り返り自体は、とても大事な習慣です。問題なのは、「振り返り方」のほうです。

僕が伴走してきた人たちと一緒にやっている、振り返り方のシンプルなルールが、ふたつあります。

ルール①:できなかったことは、書かない

その日できなかったことを、振り返りには書きません。書かないだけで、「×」は積み上がらなくなります。

「いや、書いて反省しないと、改善しないでしょう」と思うかもしれません。でも、続けるのに必要なのは、反省ではなく、「続いている」という実感です。改善は、続いた先に、自然にやってきます。

ルール②:できたことを、3つだけ書く

代わりに、その日「できたこと」を、3つだけ書きます。たった3つ、です。

ものすごく小さなことで大丈夫です。

  • 朝、起きた
  • ご飯を食べた
  • 「おはよう」が言えた

「これでいいの?」と思うかもしれません。これでいいんです。むしろ、これくらい小さいほうがいい。毎日続けるためには、ハードルが低くないと続かないからです。

これを夜寝る前に、自分の手帳でも、家族で囲む小さなホワイトボードでもいいので、ぱっと書く。書いたら、その日は終わりにする。

3週間続けてみてください。家の中の空気が、少しずつ変わってきます。

家族で「できたこと」を3つ並べてみる

ご家庭でやる場合、僕がいちばんおすすめなのは、夕食の終わりか寝る前に、家族で順番に「今日できたこと」を3つずつ言い合う、というやり方です。

  • 「私は、洗濯ものを畳んだ。仕事のメールを返した。あなたの好きなお茶を淹れた」
  • 「俺は、朝早く起きた。電車で席を譲った。今日のニュースを最後まで聞いた」
  • 「私は、起きた。お風呂に入った。ご飯を食べた」

ここで、ルールがひとつだけあります。お子さんの3つに、「すごいね!」「もっとできるよ!」と評価をのせない、ということです。

評価をのせると、3つを言う時間が、また「点数の場」になってしまいます。そうではなく、「うんうん、教えてくれてありがとう」とだけ受け取る。誰の3つにも、家族の誰も評価をのせない。これが、続けるためのいちばん大切なルールです。

「起きた」だけでもいい。「お風呂に入った」だけでもいい。それを家族の前で口にできるだけで、お子さんの中で、何かが少しずつ、温まっていきます。

今日からの1mm

今夜、寝る前に、紙でもメモアプリでも、なんでもいいので、こう書いてみてください。

今日、私ができたこと

1. ___

2. ___

3. ___

ぱっと出てこなかったら、こんな例を参考にしてみてください。

  • 朝、起きた
  • コーヒーを淹れた
  • 子どもに「おはよう」と言った
  • 自分の歯を磨いた
  • このコラムを読んだ

この中から、好きな3つを選んで書くだけでも大丈夫です。書いた紙は、捨てずに、そっとどこかに重ねておく。1週間で21個、1ヶ月で90個の「できた」が、目に見える形で積み上がっていきます。

伴走者からの一言

「できたこと」を数える習慣は、お子さんの気持ちを楽にするためのものでもありますが、それ以上に、お父さん・お母さん自身の気持ちを楽にするためのものです。

毎日「うちの子は学校に行けない」を出発点にして1日を組み立てると、夜には必ず×が残ります。でも、「うちの子は今日、起きて、ご飯を食べて、おやすみを言ってくれた」を出発点にすると、夜には〇が3つ残ります。

事実は、どちらも同じです。違うのは、どこに目を置くか、だけ。

家族の毎日から×を外すだけで、明日の朝の声色が、少しだけ変わります。声色が変われば、家族の関係が、少しだけ変わります。

次回からは、10月に入って、「ちがう環境」に目を向けるお話に進みます。

(つづく)

不登校から高校進学準備ができるフリースクール

寄稿者

二川 佳祐

2009年、東京学芸大学卒業(A類社会科専攻)。同年から2026年まで17年間、東京都公立小学校で教員として勤務(主任教諭)。教員をしながら、2017年12月、学びのコミュニティ「BeYond Labo」を立ち上げ、マイチャレンジサロンを継続して運営。Voicyにて毎朝配信を継続中。ICT・AI活用、習慣化に関する著書多数。2026年3月に退職し、同年5月、株式会社E³ Habit を設立。全国の先生を「縁」でつなぎ、学びを楽しむ大人を増やすことをライフワークとしている。Voicy「学び応援し続ける ふたかわさんの習慣伴走ラジオ」を毎朝配信中。

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