「習慣でひらく扉――不登校の季節を歩く家族へ」7

10月になると、学校という場所の空気が、少しずつ変わってきます。
文化祭、体育祭、修学旅行。教室の中で、行事の準備が動きはじめる。ひとつの場所、ひとつの集団、ひとつのリズムが、ぐっと強くなる季節です。
その強くなったリズムに、うまく乗れない自分を感じることが、お子さんにとっては苦しい時期でもあります。お父さん・お母さんからも、「夏休み明けは行けるかな」と願っていた9月より、10月のほうがしんどい、という声があがったりする時期です。
今回は、そんな10月に、教室「だけ」が学びの場所ではない、というお話をします。
「ちがう環境に行ってみる」は、習慣を変えたいときに、いちばん効くテクニックのひとつでもあるのです。

「環境」が変わると、習慣は変わりやすい
僕が習慣化の伴走の中で、いちばん多くの人に勧めてきたのが、「環境への投資」という考え方です。
これは、シンプルに言えば、「やる気を出す」より「場所を変える」ほうが、ずっと効く、ということです。
たとえば、家で勉強できない人が、図書館に行くと、急に集中できることがあります。家で本が読めない人が、カフェに行くと、ふしぎと読めたりします。これは、本人の意志が強くなったからではなく、環境が、行動を引っ張ってくれたからです。
僕がいつも言うのは、「人は意志で動くのではなく、環境で動く」ということです。
これは、教室に行けない・行きにくいお子さんにも、まったく同じことが言えます。「教室」というひとつの環境の中で、行動を立て直そうとすると、ものすごくエネルギーを使います。けれど、「ちがう環境」に身を置くと、案外あっさりと、本来の自分が戻ってきたりするのです。
「ちがう環境」は、たくさんある
「教室がだめなら、フリースクールしかない」と考える必要は、まったくありません。
世の中には、お子さんが居られるかもしれない場所が、思っているよりもたくさんあります。少しだけ、思いつくものを並べてみます。
・学校の別室・保健室で過ごす
・自治体の教育支援センター(適応指導教室)
・民間のフリースクール
・オンライン学習サービス
・図書館・自治体の学習スペース
・児童館・地域の子ども食堂
・親戚の家・祖父母の家
・公民館・カフェ・自宅の中の「特別な場所」
これらに、上下はありません。「フリースクールはがんばっている、図書館は逃げている」というような優劣も、まったくありません。お子さんが、その日、安心して呼吸できる場所が、その日の「ちがう環境」です。
そして、これは中学のあいだだけの話ではありません。中学を卒業したあとの進路にも、全日制・定時制・通信制の高校、サポート校、そして高卒認定試験(高認)といった、いくつもの道があります。教室に毎日通うことが前提ではない学校も、いまの日本にはたくさんあるのです。これらもまた、「ちがう環境」のひとつです。
大事なのは、選択肢を、家族みんなで「ふつうに知っている」ことです。
「行ってみる」前の小さな1mm
「ちがう環境」に行く、というのは、本当はとても大きな一歩です。新しい場所、新しい人、新しい空気。脳にとっては負荷の高いことなので、いきなり「来週から通おう」とすると、お子さんが動けなくなってしまうことがあります。
そこで、僕が伴走してきた人たちと使ってきた手順を、ご紹介します。
ステップ①:見るだけ
行く前に、「見るだけ」をします。フリースクールのホームページを家族で開いてみる。教育支援センターのパンフレットをもらってきて、お子さんに渡してみる。通信制の高校の紹介動画を、夕食のときに流してみる。
ここで、感想を求めないのが、いちばん大事なコツです。「どう思った?」と聞かない。「ふーん、こういうのもあるんだね」と、親の側がさらりと言うだけ。
ステップ②:近くまで行ってみる
その場所の「前」まで、家族で行ってみます。建物の前を通る。看板を見る。それだけで帰ってくる。
「中に入ってみる?」とも聞かない。ただ、「行きの空気」と「帰りの空気」を、一度体験する。これだけで、お子さんの脳の中の「未知」が、少しだけ「既知」になります。
ステップ③:1回だけ行ってみる
ステップ①②を何度かくり返したあとで、本人が「ちょっと行ってみてもいい」と言えたら、1回だけ行ってみる。続けて通うことを、最初から約束しない。「今日、1回だけ」と決めておく。
これが、習慣化でいう「ミニマムにする」を、環境に応用したやり方です。
今日からの1mm
今夜、ご家族で、こんな会話をしてみてください。
「最近ね、フリースクールっていう場所があるらしいよ」
「通信制の高校って、毎日は通わなくていい学校もあるんだって」
「図書館の2階にね、勉強できる席があるらしいよ」
このとき、お子さんに「行ってみる?」と問わない。これがコツです。問わないからこそ、お子さんは、自分の中で、その情報を安心して受け取ることができます。
「世の中にはこういう場所もあるんだ」を、家族でゆっくり知っていく。それだけで、ご家庭の中の選択肢は、確実に広がっていきます。

伴走者からの一言
教室に戻ることだけが、ゴールではありません。教室に戻ることが、ゴールのひとつであってもいい。フリースクールに通うことが、ゴールのひとつであってもいい。通信制の高校に進むことが、ゴールのひとつであってもいい。
家族の中で、たくさんのゴールが上下なく並んでいるとき、お子さんは安心して、自分のゴールを選ぶことができます。
「ちがう環境」は、逃げ道ではなく、選び道です。
10月の終わりまでに、ご家族の中で「うちには選択肢がたくさんある」という空気が、ほんの1mmでも育っていたら、十分です。
次回は、その「ちがう環境」の中で出会える、もうひとつの宝物――仲間との「待ち合わせ」のお話をします。
不登校から高校進学準備ができるフリースクール
