「習慣でひらく扉――不登校の季節を歩く家族へ」1

はじめまして、二川佳祐(ふたかわ・けいすけ)です。

公立小学校で17年間、子どもたちと過ごしてきました。今年の春に教員を辞め、株式会社E3 Habitという小さな会社を立ち上げて、教育に携わる人たち向けにコミュニティ運営をしたり、「習慣」をテーマに全国の先生や保護者の方々の伴走をしています。これから9ヶ月間、月2回のペースで、この「free」で連載をさせていただきます。

タイトルは、「習慣でひらく扉――不登校の季節を歩く家族へ」としました。

「不登校」と「習慣」。

一見、遠く離れた言葉に見えるかもしれません。でも、この二つを真ん中に置いて9ヶ月歩いてみると、見えてくる景色がきっとあると、僕は信じています。

目次

「先生」だった僕が、習慣に救われた話

最初に、少しだけ僕の話をさせてください。

僕は若いとき、自分の力不足で学級がうまくいかず、子どもにも保護者にも同僚にも、本当にたくさんの人に迷惑をかけた時期があります。出勤前に「笑え、笑え」と自分のほっぺを引き上げてからやっと家を出る、そんな朝が続きました。後から先輩に「よくあのとき、もったよなあ」と言われるくらい、追い詰められていました。

そんな僕を救ってくれたのが、「習慣」でした。

きっかけは、株式会社DAncing Einsteinの代表の、脳神経科学者の青砥瑞人さんという友人との再会です。高校の同級生なんです。

そんな彼の「人間そんなもんだから、飽きるから」「結果が出るには時間がかかるから、とにかく記録をつけな」という言葉に伴走されながら、ほんの小さなことを、毎日続けてみました。手帳に1行書く。朝5時に起きる。仲間と挨拶を交わす。など、自分のできることを、できるサイズでやっていきました。

そうすると、不思議なことに、なくしていた自信が、少しずつ戻ってきたのです。「自分にもできるじゃん」と思えるようになったとき、「自分にもできるじゃん」「自分も捨てたもんじゃないな」そう思えて、僕は教室にもう一度、笑顔で立てるようになっていきました。

「行けない」を、責めなくていい

この連載の読者の中には、いま「学校に行けない」状態にあるお子さんと、その家族の方が多いと想像します。

僕は声を大にして言いたいのです。「行けない」は、お子さんのせいでも、ご家族のせいでもありません。意志が弱いからでも、努力が足りないからでもありません。

実は、人間の脳というのは、新しいことを始めるのが本当に苦手にできています。脳は、できるだけエネルギーを使わない「いつも通り」を好む臓器なのです。だから、いったん「行かない」がいつも通りになると、そこから動くのにはとても大きなエネルギーが必要になる。これは脳の自然な仕組みであって、子どもが悪いのではないのです。
また脳は不快なものや、命を脅かすようなものを避けようとします。学校に行かなくなった理由は様々あると思いますが、それは一つの正しい反応だと思っています。無理をしながら学校に行くではなく、自分の脳のアラートに気が付いて行動を選択できていることは素晴らしいことです。

でも、同じ仕組みを逆に使うこともできます。新しい「いつも通り」を、ほんの小さな1mmからつくっていけば、脳は少しずつ、それを「いつも通り」として受け入れてくれる。これが、「習慣」の力です。

「不登校をどうにかする」連載ではありません

この連載は、「不登校をどうにかする方法」を書く場所ではありません。

僕が9ヶ月でお届けしたいのは、お子さんの「学校に行く・行かない」を変えるためのテクニックではなく、家族の毎日を、ほんの少しだけ整える「小さな習慣」のヒントです。

具体的には、こんなテーマを予定しています。

家族の毎日を、ほんの少しだけ整える「小さな習慣」
・アバターを使うので顔出し不要、心理的ハードルが低い
・自宅から参加でき、外出が難しい状況でも学びを継続できる
・条件次第で学校の出席扱いになる場合がある
・少人数グループ活動など、孤立を防ぐ工夫がされていることが多い
・同年代とのやり取りで、小さな自信や社会性を育む機会になる

どれも、僕自身が17年間の教員生活、そして自分自身の人生で実際にやってきて、効果を実感してきたことばかりです。

今日からの1mm

最初の1mmは、本当に小さなことでかまいません。

たとえば、今夜、お子さんに「今日、ありがとう」と一言だけ伝えてみる。 たとえば、自分が眠る前に、深呼吸を3回だけしてみる。 たとえば、明日の朝、カーテンを開けるときに、1秒だけ空を見上げてみる。

「そんな小さなことで何が変わるの」と思うかもしれません。でも、少しずつ変わります。少なくとも、僕の17年と、僕が伴走してきた何百人もの人たちが、教えてくれました。「人間はいきなりは変われない。けれど、必ず変われる」と。

9ヶ月、一緒に歩きます

この連載は、答えを差し出す場所ではなく、隣で一緒に歩く場所にしたいと思っています。

うまくいかない朝も、誰にも言えない夜も、9ヶ月のあいだに、何度もやってくると思います。そんなときにこの連載が、ほんの小さな1mmの応援になれたら――そう願って、月2回、書き続けます。

最後に、アメリカの公教育の父と呼ばれる教育学者、ホレース・マンの言葉を借ります。

「習慣はロープのようなものだ。毎日少しずつ撚っていけば、やがてそれを断ち切ることはできなくなる」

子ども・家族の毎日の中に、断ち切れない強さを、少しずつ。 次回、お会いできるのを楽しみにしています。

(つづく)

不登校から高校進学準備ができるフリースクール

寄稿者

二川 佳祐

2009年、東京学芸大学卒業(A類社会科専攻)。同年から2026年まで17年間、東京都公立小学校で教員として勤務(主任教諭)。教員をしながら、2017年12月、学びのコミュニティ「BeYond Labo」を立ち上げ、マイチャレンジサロンを継続して運営。Voicyにて毎朝配信を継続中。ICT・AI活用、習慣化に関する著書多数。2026年3月に退職し、同年5月、株式会社E³ Habit を設立。全国の先生を「縁」でつなぎ、学びを楽しむ大人を増やすことをライフワークとしている。Voicy「学び応援し続ける ふたかわさんの習慣伴走ラジオ」を毎朝配信中。

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