「習慣でひらく扉――不登校の季節を歩く家族へ」4

8月のお盆を過ぎたあたりから、空気が少し変わってきます。
蝉の声が変わり、夜風が違う匂いになり、スーパーには新学期の文房具コーナーができる。それを見るたびに、「ああ、もうすぐ2学期だ」と、お腹のあたりが重くなる。お子さんではなく、お父さん、お母さんが、です。
「2学期が始まれば、何とかなるかもしれない」「いや、また同じ朝が始まるのかもしれない」――その両方の予感が同居して、眠りが浅くなる。8月後半は、ご家族にとってもしんどい時期だと思います。
今回は、お子さんよりも先に、まずあなた自身を整えるための習慣のお話です。

親が先にバテない、ということ
不登校の渦中にいるご家族で、いちばん酷使されているのは、たぶんお子さんでも、まわりの大人でもなく、いちばん近くで支えているお父さん・お母さんです。
朝は声をかけ続け、昼は仕事に向き合い、夕方は学校や支援者に連絡を取り、夜は「今日も結局〜」と振り返る。そのうえ、自分の感情を子どもに見せないように、ぎゅっと押し込んでいる。
この状態が長く続くと、心と体は、いつのまにかすり減っていきます。
僕が17年間、教員として何百人もの保護者とお会いしてきて、痛感したことがひとつあります。それは、子どもが安心して回復していくには、何よりもまず、いちばん近くにいる大人が「バテていないこと」が大切だ、ということです。
「親が整う」というのは、頑張ることではありません。むしろその逆で、自分のために、ほんの小さな時間と気力を、毎日少しだけ取り戻すことです。その優先度を少しだけ高くしてあげてみてください。

「動かない人」は「今じゃない」だけ
ここで、僕が習慣化の中で大切にしている考え方を、ひとつご紹介します。
人にはみんな、変わるタイミングがあります。ある人は明日変わり、ある人は来月変わり、ある人は半年後に変わる。そして、もちろん子どもにも、それぞれのタイミングがあります。
僕が学校で見てきた限り、「動かない人」は、能力が低いわけでも、意志が弱いわけでもありませんでした。ただ、「今じゃない」だけだったのです。タイミングが合わないときに無理に押すと、その人はますます動かなくなる。逆に、本人の中で何かがそろったとき、人は自分のペースで、すっと動きはじめます。
これは、お子さんにも、そしてお父さん・お母さん自身にも、まったく同じことが言えます。
「もっと頑張らなきゃ」「もっとうまくやらなきゃ」と自分を追い込んでいるとしたら、あなたもまた、「今じゃない」のかもしれません。今は、整える時期。動かす前に、自分の土台を、ゆっくり整える時期です。

自分のための「3つの整え」
僕がいつもおすすめしているのが、「生活を整える」「健康に投資する」「人とつながる」の3つの整えです。今回は、お父さん・お母さん自身のために、それぞれ1mmずつの提案をします。
① 生活を整える1mm
寝る時間を「1つだけ」決めてみてください。23時、24時、25時、何時でも構いません。「今日からは23時にベッドに入る」とだけ決めて、そこに向かって他の予定を逆算する。
不登校のお子さんがいる家庭は、夜が長くなりがちです。話を聞いたり、考えごとをしたり、SNSで情報を集めたり、つい時間が伸びていく。でも、睡眠が削られると、翌朝のあなたの言葉と表情が、確実に固くなります。
整える順番は、子どもの就寝ではなく、まず自分の就寝、です。
② 健康に投資する1mm
「自分のためだけのお茶を1杯飲む時間」を、1日に1回だけ確保してください。
朝の10分でも、昼休みの3分でも、夜のひと息でもいい。家族の誰かのためではなく、誰にも気を遣わずに、ただ自分のためだけに飲む1杯。
ほんとうに小さなことに聞こえますが、僕の伴走経験では、こういった自分のためのことができる方とできない方とで、半年後の表情が大きく違ってきます。自分を1日のなかで「1回だけは大事にしてあげた」という事実が、毎日積み上がっていくからです。
③ 人とつながる1mm
子どもの状況を話せる相手を、1人だけ確保してください。
家族でも、友人でも、SNSで知り合った同じ立場の方でも、自治体の支援員でも、誰でも構いません。「うちの子の状況」を、評価されずに聞いてもらえる相手が、1人。それだけで、世界はだいぶ違って見えるようになります。
これまで接してきた保護者の中にも、不登校のお子さんを持つ親御さんがたくさんいらっしゃいました。みなさん口をそろえて言うのは、「自分と同じ気持ちの誰かがいる」と知っただけで、ずいぶん楽になった、ということです。

今日からの1mm
今夜は、ほんの1分でいいので、お子さんのためではなく、あなた自身のための時間を取ってみてください。
- 湯船にちょっと長めに浸かる
- 深呼吸を3回する
- 好きな本のお気に入りの1ページを開く
それだけで、十分です。「自分を後回しにしない」という決意ではなく、「自分を1mm先に置く」という小さな行動が、今日の夜と、明日の朝を、確実に変えていきます。
伴走者からの一言
「親が整わないと、子どもは整わない」と言いたいわけではありません。それを言われると、お父さん・お母さんは余計につらくなります。
そうではなくて、まず自分自身から、その先にお子さんの元気があります。一人で請け負うというのはとても大変でそれだけのことを、毎日一人でやってきた。親御さんが整っていないのが、当たり前なのです。子供のために身を粉にして動いてしまうのが親ですから。
8月後半、まずは自分のための1mmから、ゆっくり始めてみてください。
次回は、9月の最初の朝、「行けない朝」の声かけを、家族の習慣として設計するお話をします。
(つづく)
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